このクソったれな曲はこうしてやればいいんだ! [音楽]

※タイトルは、ジェフ・エメリック(&ハワード・マッセイ)著「ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実」から抜粋。


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 発泡酒が登場したあたりまでは何とかついて行けたが、今はもう混沌としていてよくわからない。
 第三のビール、第四のビール、新ジャンル商品…。田村正和がCMで「僕には、ビールです。」と言ってみたり。スーパーのアルコール飲料のコーナーに行っても種類があまりに多くて、どれがビールなのか発泡酒なのかそれ以外なのか、判別がつかない。
 酒税法の改正でビールが増税されると、メーカー各社は一生懸命新しい商品を開発するのだが、新商品が売れると政府はまた税金をかける。Taxmanはとことん容赦ない。

 最近、アサヒビールの新ジャンル商品のCMでビートルズの「Ob-La-Di, Ob-La-Da 」のカバーが流れている。ビートルズの楽曲の中でも屈指の能天気ソングであり、小学校の教科書に載るほどの有名曲だ。CMも、さわやか俳優・佐藤隆太のイメージと相俟って、清々しい雰囲気を醸している。
 しかしこの「Ob-La-Di, Ob-La-Da 」という曲をレコーディングしていた1968年夏、ビートルズは険悪そのもので、メンバー間には不穏なムードが漂っていた。スタジオでポール・マッカートニーがOb-La-Di, Ob-La-Daを歌いだすと、ジョン・レノンが「ババァ向けのクソ曲」と文句を言う。
 この曲のレコーディングをさんざん重ねた後、ポールが「この曲を1からやり直したい」と言い出し、ジョンは怒り狂ってオノ・ヨーコと共にスタジオを出て行く。「今日はもう録音は無理かな…」とみんな諦めていたら、数時間後にハイになったジョンがスタジオに戻ってきて、ピアノの前に向かい、
「このクソったれな曲はこうしてやればいいんだ!」と言って、力まかせに鍵盤を叩く。この時のフレーズがあの印象的なOb-La-Di, Ob-La-Da のピアノイントロの原型である。クソったれと貶しながらも、楽曲を良くしようという思いはあったのだろう。
 このジェフ・エメリック(エンジニア)の本に出てくるジョン・レノンは気まぐれで短気でエキセントリックな人間として描かれている。一方のポール・マッカートニーは常識のあるオトナという像だ。エメリックはポールと親しかっただけに、筆致にバイアスが掛かるのは致し方なかろう。
 それにしても、40年も前のことをこれだけ仔細に記憶しているなんてすごい。ある程度の脚色・捏造記憶はあろうけれど、スタジオ内のやり取りや空気がリアリティをもって迫ってくるのは、やはり現場に居合わせた人間が書いたものだからだろう。

 老年の人と会話をしていていつも思うのは、本当に昔のことをよく覚えているなぁということ。私が老年になったとき、若い人に語るような思い出話はあまりない。断片的な記憶のかけらは無数にあるのだが、物語性をもったエピソードは悲しいことにほとんど持っていない。私には20世紀の日本を伝える語り部になる資格はない。話しベタというのもあるけど。
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